Ekzameni Vortojn/単語をしらべる
HOS^IDA Acus^i
 エスペラントが生まれてから百二十年、一つ一つの単語にも歴史があり、またエスペラント以前、その材料となったヨーロッパ文化の遺伝も含まれています。辞書に出る訳語だけでは理解しにくいこともあるので例文を読んで考えることもありますね。以下、最近の例です。

*celebri
 横浜UKの DUA BULTENOに、大会前後行事(Antau~ kaj postkongresaj ekskursoj)の説明があります。La Pacmemor-Parko (広島平和記念公園)について、原爆ドームの写真の横に次の文があります。
La Pacmemor-Parko estis konstruita por celebri la falon de la atombombosuper Hiros^imo en la 6-a de au~gusto 1945 kaj por instigi pacan mondon.
au~gusto 1945 迄の文は、
 「1945年8月6日の広島への原子爆弾落下(投下)を celebri するために平和記念公園は建設された」と読めます。そこで、celebri を どう理解するか。
 昨年出た「エスペラント日本語辞典」では、(儀式、祝賀会を)おこなう、(記念日などを)祝賀するとあり、例文は 結婚式をおこなう、記念日の祝賀式をおこなう、生誕(創立)100年を祝う となっています。
 とすると、この文は「原爆投下を祝うために ---- 建設された」と なりそうですが、「原爆投下を祝う」は、日本では聞きませんね。
 投下した側の国では、「原爆投下によって戦争を終わらせた」が公式見解であり、祝賀すべきものと理解するのが当然のようですが。
 この辞典の訳語の最初の言葉だけを採用して「儀式を行う」とすれば「祝賀」なしの理解ができそうです。たしかにあの公園では儀式が行われています。毎年原爆投下の日に。「原爆犠牲者を悼み、平和を祈念する儀式をおこなう」という意味で、celebri を理解する余地はあるでしょう。
 それでは、権威ある PIV(PLENA ILUSTRITA VORTARO DE ESPERANTO)では?
celebr/i (tr) Publike k lau~rite plenumi ceremonion kun ia religia karaktero
つまり「なんらかの宗教的色合いのある公開の儀式をおこなう」こと。例文は復活祭の儀式をおこなう、結婚式をおこなう、など。
PIV では、これにつづいて
(vs)(=vastasence) として
Plenumi ceremonion okaze de iu grava evento:重要な行事での儀式をおこなうがあり、「祝賀」の色合いは薄くなっています。
 celebri と同じ語源の英語 celebrate は、
「儀式、祝典をおこなう、人の功績をほめたたえる、お祭り騒ぎをする」で、「祝い、まつり」の色合いが強くなっています。
 このことばの語源は? ラテン語の celeber =有名な、よく知られた、から出て、顕彰する、ほめたたえる、顕彰の儀式、となったようです。
 再び最初の DUA BULTENO の文にかえります。PIV にあるように「儀式をおこなう」で理解できますが、新しい「エスペラント日本語辞典」では(英語の影響?)祝賀の色合いが濃い。日本での「原爆の日」の儀式は「追悼と平和祈念」ですから、誤解されそうな単語は避けて、memori(記憶する), rememori(思い起こす) などを使ったほうがよかった、と思います。なお、漏れ聞くところでは、あの文を書いたのは日本人ではなかったようです。

*上に出した DUA BULTENO の文の au~gusto 1945 に続いて
kaj por instigi pacan mondon
があります。新「エスペラント日本語辞典」ではinstig/i <iun + al io, iun + 〜i> 促す、そそのかすで、人(など)をなんらかの行動に向かわせること。
類語として impulsi, inspiri, stimuli, などが出ています。
同語源の英語 instigate の訳語では「おだてる、けしかける、煽動してやらせる」などがありますが、同じことでしょう。ところで、上のpor instigi pacan mondonの意味は? 「平和な世界を刺激する」? 
por instigi mondon al paco  なら、理解もできますが、そうでしょうか?

*evento
 これも DUA BULTENO の、上掲の部分の最後の行にあり、原爆投下を指す言葉として使われていますが、広島の方から反発がありました。
>  evento 日本人にとってはイベント、まあお祭りみたいな行事という語感です
が、
>  被爆について使われると私は怒りを感じます。
 PIV では Difinita, sufic^e grava okazaj^o で、
「(重大な)出来事、大事件」ですね。日本語の「イベント」は娯楽的行事に片寄って使われているのでしょう。語源的には okazaj^o です。
古い英語の大辞典では event について「吉凶にかかわらず、出来事、事件を表現する」との説明がありました。

*plag^o, strando
 「よみがえれ、えりもの森」の翻訳中、「百人浜」の訳語にちょっと混乱がありました。辞書では次のようになっています。
plag^o:
(PIV) Strando, arang^ta por la akcepto de feriantoj
(新エス日)1.砂浜、ビーチ  2.(整備された)水浴場
strando:
(PIV) Bordo de maro, lago au~ rivero sufic^e ebena k sabloric^a por la sun-
au~ akvo-banoj
(新エス日)岸、浜、砂浜
これによって、より人工的加工の少ない浜として strando を採用し、
「百人浜」は Strando Hjakuninhama といたします。