[ホームページへ戻る]


Rekomendo de voc^lego 音読のススメ

KABAYAMA Yuusuke 樺山 裕介


「エスペラントの共同体は、その構成員が例外なく二つ以上の言語を話すという、世界的規模の言語共同体としては数少ない例の一つである。構成員はそれぞれ、 少なくとも一つの非母語(ここではエスペラントのこと)を会話のできる程度まで学ぶことを自己に課している。」プラハ宣言の一節です。
5月合宿の講師、藤本達生さんが強調したことは、会話力をつけるためには音読が大事であることでした。そのとおりです。
口を動かさないで、しゃべれるようになりたいなんて、腹筋運動をしないでダイエットしたいと言うようなものです。私は薬屋で働いていましたが、ダイエット食品だけで痩せた例を知りません。音読は、相撲の四股のようなものです。スポーツ選手が走り込むようなものです。基本です。いくら目で読めても、しゃべれるようになれるわけがありません。
私の失敗例を書きましょう。横浜の世界大会が始まる前、分厚い推理小説にはまってしまい、少しの音読さえもせず、さぼってしまいました。そこそこのエス歴があるから大丈夫だと、なめてました。本番、思ったよりも受け答えができなくなっていました。これではいかんと、会場の廊下で、尊敬する知人の論文を音読しました。この慣らし運転のおかげで、それからは口が思うように動くようになり、会話を楽しむことができました。
ある語学の達人の本で読んだ例です。インドネシア語は習得の易しいことばだったので、発音練習をしないで、現地へ行った。そうしたら、頭では解っているはずなのに、会話ができなかったというのです。

エスペラントには、聖徳太子ならぬザメンホフが定めた、不可侵なる十六条憲法があります。憲法第9条は、「発音は書かれた通りになされる」ということです。視覚媒体と聴覚媒体の完全一致、聴く人に誤解の余地のない原則堅持こそが、そうありたい誠実なコミュニケーションであります。つまりは正確にきれいに発音することです。後述しますが、これはいろいろ学習の役にもたちます。ただし、まだきれいに発音できないからといって、会話をしないのは、いけません。
また、完成をあきらめていない発展途上の人のせいいっぱいの声を、発展しちゃった人は誠実に受け止める義務があります。居直って傲慢にならず、怖じけて卑屈にもならないことが双方に求められます。なにより優先されるのは、とにかくまず意志疎通をし、そして、できればもっとより良い、公正で実りのある意志疎通を次に作るんだという向上心です。
正確できれいな発音をするには。まず、母音AEIOUから。特に大事なのはUです。ウよりもいっそう口をすぼめます。Uの後にもうひとつUをつけるくらいでちょうどいいです。でないと、すぐ紛れてしまいます。
次に大事なのはIです。イよりももう一歩、横に広げて発音しましょう。
OもOに聞こえるくらい意識して唇を前に出します。
Aも練習のときは意識して縦に広げるといいです。
子音で大切なのはNです。これは舌先を必ず上の歯の裏につけなければいけません。
目的格のNはあるなしで全く意味が違ってしまう大事なところです。ここで、舌を歯に付けない「ng」になってしまいがちですが、一回一回付けましょう。
子音で日本人(そして、おそらく多くのアジア人)が苦手なのは、重なった子音と、LとRです。「ekstremo」なんてkstrと、なんと四重子音です。実は、先行した人工語ヴォラピュクでは、そこのところをちゃんと考えていて、多重子音とRを無くしたんですね。でもこうなったら仕方がない。子音から子音へ移るスピードをできるだけ速くしてよけいな母音ができるだけ入らないようにしましょう。その分、母音の発音は長くしっかりやって、はっきりした差をつけるように、くりかえし練習しましょう。
「エクストレーモ」なんて発音してはいけません。「ekusutoremo」になってしまいます。憲法違反です。これは「エエkstレエエエモオ」と発音するのです。LとRについては、RよりもLの方が大事です。舌を歯の裏につければL、それ以外はすべて(たとえ巻き舌にならなくても)Rだからです。もっとはっきりさせるには、「あぶらあげ」を繰り返し言うことで、Rの巻き舌発音が、意外に簡単に身につきます。

発音の前に、おおあくびをしたり、顎を前後左右に動かして、口角をほぐしておきます。さあ、読んでみましょう。

Karlo tre amis sian fratineton, sed ne kurag^is ludi kun s^i

カアアrloオ trエエ アアミs  スィイイアン fraアティイネエエトオン、セエd ネエ クウゥraアアアヂイs  luウゥディイ クウン シイィ

 くどいですか? しかし5をやるのに練習で10やらないと、本番で1も出ません。母音は必要とあらばいくら長く発音してもかまわないのです。後ろから2番目の音節は、さらに、もーっと長くすればいいのです。子音は子音で正確に、そして多重子音は瞬時に近いくらい短くなくてはいけないのです。子音は子音、母音は母音、さらに憲法10条「アクセントは後ろから2番目」であることを、崩さないことが最優先です。
速く読むのはそれができてからです。速くきれいに読めるのは、これができているからです。これができれば、もう緩急自在です。
実際、はじめは、舌や歯や唇やあごが、口のなかと顔面の下半分で、すったもんだでたいへんです。しかし、くりかえしていくうちに、舌や歯や唇やあごが、なすべき仕事を覚えてくれます。こうなると、文字を見れば、その通りに動いてくれるようになります。発音することが楽しくなってきます。怖じけていた会話に対しても、何かがはじけ飛びます。
単語が楽に覚えられます。目だけではなく、口が覚えるからです。口が思いだしてくれます。LかRか、もう迷ったりしません。AkurateをAkrateだと間違って書いたりしません。SpritoとSpiritoを、ごっちゃになんかしません。
自分が発した声は、自分の耳に響きます。これは、自然に、聴き取りの練習になっています。
歌うことも楽しくなってきます。ザメンホフ以来の詩や散文の美しさを味わうことができます。リズムに合わせて踊る舌と耳の喜びです。
つまり、「話す・聴く・書く・読む」全てを完成させるのです。全てに必要なのです。全てへの近道なのです。
さあ、口を動かしましょう。黙読を禁止しましょう。エスペラントの集まりに出て一言もエスペラントを口にしないなんて、エスペラントファン倶楽部にさえもなりません。ちょっと勇気がいるのはお互い様。はずしてナンボ。あらゆる機会を利用しましょう。別の人が読んでいる番でも、口パクで自分も読みましょう。それをしないと、あまりにももったいないです。これをやっているおかげで、ロシア語教室でもアイヌ語教室でも、私が最も滑舌の良い生徒でした。
時間がない人には、せめて「1日3分の音読」を強くお薦めします。私は旅の間でもやりました。
私の身の回りにいる人で、使命感はあるのに、努力しているのに、伸び悩んでいる人がいますね。でも、あなたがたがエスペラントを勇気を持って口から発したのを聞いたことがありません。目よりも口を動かしていただきたい! 道はそこにしかありません。これは、あなたたちへの手紙でもあります。
えらそうに書きましたが、HさんSさんKさんBさんFさんOさんその他いろいろな人が言ったり書いたりしてきたことが元になっています。それを踏まえたうえでの私の経験です。エスペラントに興味を持ってやってくる数少ない人たちをがっかりさせないためにも、殻を破ってもらう一助になればと、キーボードを打ちました。
Prononcu, prononcu kaj prononcu! Legu kun voc^o!


[投稿記事のページへ]
[ホームページへ戻る]