3. 簡単なアイヌ語文法
3-3. 名詞句
3-3-1. 名詞句の省略
名詞句は省略することができる。 下記の例で「~」という記号はその可能性を示している。 しかし、一人称、二人称を表す人称接語は省略できない。
人称接語については3-3-2を参照。
  - hauxe 「~の声」(haux「声」の所属形)
  
 - rupnekur
  hauxe 「おとなの声」
  
- hauxe 「彼の声」
  
  - noski 「~の真ん中」(位置名詞)
  
 - ikkeux noski 「背中の真ん中」
  
- noski 「その真ん中」
  
  - mina 「~は笑う」(一項動詞)
  
 - rupnekur
  mina 「おとなが笑う」
  
- mina 「彼が笑う」
  
  - kor 「~が~を持つ」(二項動詞)
  
 - rupnekur
  tucxi kor
  「おとなが大つちをもつ」
  
- rupnekur
  kor 「おとながそれを持つ」
  
- tucxi kor 「彼が大つちをもつ」
  
- kor 「彼がそれを持つ」
  
    - ari 「~で(道具)」
  
 - tucxi ari 「大つちで」
  
- ari 「それで」
  
3-3-2. さまざまな名詞句
名詞句には次のような型が存在する。
  - [名詞]
  
 - rupnekur 「おとな」
  
 - [名詞] + [名詞の所属形] 
  (名詞の代わりに、主格の人称接語がきてもいい。)
   - rupnekur
  hauxe 「大人の声」
  
- cxi hauxe
  「私の声」
  
  - [名詞] + [位置名詞] 
  (名詞の代わりに目的格の人称接語がきてもいい。)
   - pet etok
  「川の行方(すなわち川の源)」
  
- un etok
  「わたしの目指す場所」
  
  - [名詞] + [名詞的助詞]
  
 - cxep utar
  「魚」
  
 - [連体詞] + [名詞]
  
 - iuxan mosir 「六つの国々」
  
 - [一項動詞] + [名詞]
  
 - pirka uakka 「良い水」 
  (uakka pirka
  「水は良い」はこの名詞句に対応する節である。 )
   - [名詞] + [二項動詞] + [名詞]
  
 - 1. rupnekur kor tucxi
  「おとなの持つ大つち」
  
- 2. tucxi kor
  rupnekur 「大つちを持つおとな」
  (rupnekur tucxi
  kor 「おとなは大つちを持つ」は1、2の名詞句に対応する節である。
  )
    - [節] + [形式名詞]
  
 - rupnekur
  tucxi kor
  ike 「おとなが大つちをもっていること」
 
など。
直接動詞と関わる名詞句、つまり、「~」の記号で示されるものは、いかなる格表示も持たない。ただし、人称接語は格を表示する。下記の
as, cxi,
unを参照。
二人称のための人称接語はそのような格変化形を持たない。また、三人称のための人称接語は存在しない。
一項動詞は名詞になり得る。
  
    | mina | 
    「~は笑う」 > 「笑い」 | 
  
    | uraj kik | 
    「~は川のさくを打ち込んだ」 > 「川のさくの打ち込み」 | 
  
もっとも頻繁に見られる合成名詞の組み立ては [名詞] + [名詞] である。
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