1. 一般的注意


1-2. 原典と表記について


訳注:切替さんの原文はアイヌ神謡集のエスペラント訳、"Ainaj Jukaroj"を前提と して書いてあり、エスペラントからの訳のため、 アイヌ語(音)の表記はエスペラント式になっています。 本文にも説明がありますが、 エスペラント文字の読み方を知っていたほうがわかりやすいでしょう。 こちらが参考になるかと思います。アイヌ語との関連も載せています。


「アイヌ ユーカラ」はアイヌ女性、知里幸恵によって アイヌ語と日本語で書かれており、13編の2言語の韻文物語が含まれている。 原典の日本語の題名は、"アイヌ神謡集"である。(字義は、"アイヌ民族の神-謡集"である。)この著作のアイヌ語の題名は与えられていない。 アイヌ語で、「神謡」に対応する語が おそらくkamuj jukar (カム・ユカ)である。これは、アイヌの口承文芸の様式の一つである。 この韻文集(原典)は、1923年に東京で出版された。 19歳の著者が亡くなって1年後のことだった。

神謡集の中で一番短い韻文物語が、"Pon Okikirmui yaieyukar(ポン オキキムイ ヤイエユカ), ' Kutnisa kutunkutun'('クニサ クトンクトン')"、 「小オキキムイが自ら歌った謡『クニサ クトンクトン』」である。 アイヌ語の原文をに掲載している。

原文で知里は複数の詩句を一行に置いており、 それぞれの詩句の間に2字分の空白をあけている。 本稿では各詩句が一行になるよう配置しなおした。

折り返し句(サケヘ sakehe)「クニサ クトンクトン」は、実際に歌う場合には、 物語の冒頭と、各詩句の最後(ただし最後の2詩句は除く)に現われる。 原著者はこの折り返し句をすべて省略している。

アイヌ語原文のとなりに、現在のアイヌ学の書き換え規則(分かち書きの仕方)に従ったテキストを示した。この書き換え規則はアイヌ語の文法と音韻の体系を 表わすのに適している。本稿では、エスペラントの読者のために さらに変更を加えたものを使用した。


訳注:日本語版でも、このエスペラント表記をそのまま使いました。現在の主流のローマ字表記とは異なります。アイヌ語の発音等を含め詳しくは、ここを見て下さい。


アイヌ語の音韻体系は、次の通りである。

原文の表記と書き換えた文字との対応は次のようである。

(原文 > 書き換え文)

/'/ (声門破裂音) は原文には書かれていない。書き換え文でも省略した。 /r/ は日本語の"r"。

音節の構成は次のようになる。

/p/と /t/と /k/ は音節末では破裂しない。 /'/と/cx/と/h/ は音節末に現われることはない。

ひとつの詩句は通常4つか5つの音節からなる。 5音節の句が最も安定している。

単語のアクセントは、閉音節の場合には第一音節にあり、 開音節の場合には第二音節にある。

エスペラントへの翻訳は、アイヌ語原文の構造を反映するように努めた。 読者が訳文を注意深く読んで、アイヌ語原文と比較するよう 願う。

アイヌ語の構造を理解できるように、簡単な文法をに、単語集をに用意した。 これらを参照することで、原文と訳を比較しながら読む助けとなるだけでなく、 アイヌ語を直接読むことが可能となる。 単語集は原文ではなく、書き換え文をもとに作成した。


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